大判例

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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)603号 判決

控訴人

高山仙子こと高仙子

控訴人

金豊

右両名訴訟代理人弁護士

小室貴司

被控訴人(被参加人)

大協企業株式会社

右代表者代表取締役職務代行者

北田幸三

補助参加人

全国男

補助参加人

全国成

右両名訴訟代理人弁護士

鈴木忠正

主文

原判決を取り消す。

被控訴会社の昭和五七年九月三〇日開催の株主総会における全国男、朴世現、全国成を被控訴会社の取締役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

訴訟費用のうち当審における参加によつて生じた部分は補助参加人らの負担とし、その余は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

事実

控訴人らは、「主文第一、二項と同旨並びに訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、原判決事実摘示(ただし、原判決書五枚目裏五行目中「臨時」の下に「株主」を加え、同六枚目表三行目中「原告らに対しては」を「被控訴会社は、控訴人らに対し」に、同四行目中「及び」を「を通知し、」に、同六行目中「開催する、」を「開催するので」に改める。)及び記録中の当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一以下の事実は、当事者間に争いがない。

1  被控訴会社は、海運業等を目的として昭和五〇年四月二三日設立され、現在資本金五〇〇万円、発行済株式総数一万株(一株の額面金額五〇〇円)の株式会社であり、亡高文龍が代表取締役としてその経営に当たつていた。

2  被控訴会社の本件臨時株主総会以前の取締役の数は四名であり、控訴人両名はその取締役であるが、右両名は、訴外全月仙において本件総会の招集を決定するため昭和五七年九月一一日招集し開催された取締役会に出席しなかつた。

3  被控訴会社において昭和五七年九月三〇日本件総会が開催され、株主四名(持株数四八〇〇株)が出席のうえ、被控訴会社の取締役として補助参加人全国男、同全国成、訴外朴世現を選任する旨の決議が行われたものとして、同年一〇月六日横浜地方法務局に対し右決議に基づく取締役就任の登記申請がなされ、その旨の登記がなされた。

4  被控訴会社の設立時の株主及びその持株数の内訳は、(一)高文龍四〇〇〇株、(二)全月仙二〇〇〇株、(三)田中一郎四〇〇株、(四)高文弘二〇〇〇株、(五)大塚百合子四〇〇株、(六)朴宗宅四〇〇株、(七)高国根四〇〇株、(八)その他四〇〇株であつた。

二そこで、まず本件総会を招集する旨の取締役会の決議の効力について判断する。

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。

1  被控訴会社は、亡文龍が創設したいわゆる同族会社であり、控訴人仙子は父文龍の経営を手伝いこれを補佐していたが、文龍の内縁の妻であつた訴外月仙は取締役ではあつたものの被控訴会社の経営には何ら関与していなかつたところ、代表取締役の文龍は昭和五七年四月二〇日死亡した。

2  訴外月仙は、昭和五七年九月一一日午前一一時ころ、急遽控訴人ら(控訴人らは同居の夫婦である。)の自宅に電話をして控訴人仙子に対しわずか二時間後の同日午後一時から臨時株主総会招集のための取締役会を訴外月仙の自宅で開催する旨通知した。

被控訴会社の定款二一条には、被控訴会社の取締役会の招集通知は会日の三日前に各取締役に対して発するものとし、緊急の必要があるときはこの期間を短縮することができる旨定められているが、昭和五七年九月一一日当時右緊急の必要があつたことを窺わせる事情はなかつた。

3  被控訴会社の取締役会は、昭和五七年九月一一日午後一時に開催されたが、右取締役会には取締役四名のうち、訴外月仙、同高天吉の二名が出席したのみで控訴人両名は出席しなかつた。

訴外月仙は、右取締役会がその定足数(取締役の過半数―商法二六〇条ノ二第一項)を欠いていたにも拘らず、議長として審議を強行し、右取締役会において文龍の死亡に伴い同月三〇日新取締役三名を選任するための臨時株主総会を招集し、訴外月仙の近親者である補助参加人全国男、同全国成、訴外朴世現を新取締役に推薦し、右総会の招集通知は訴外月仙の名で発送し、同人が右総会の議長を担当する旨の決議がなされ、その旨の議事録が作成された。

なお、右取締役会においては欠員になつた代表取締役を選任する決議はなされなかつた。

4  右取締役会に出席した取締役二名のうちの一人である訴外高天吉は、亡文龍と訴外月仙の間の子で控訴人高仙子の弟であるが、一三年程前に精神分裂病に罹患し、判断能力に劣り取締役として議案の内容を理解し審議に加わつていく意思能力に欠けていた疑いがあつた。

訴外月仙は、右取締役会及び本件総会の開催について実弟である補助参加人全国男に協力を求め、これに応じた同参加人が訴外月仙を補佐して両会開催の手続面と実務面を担当した。

なお、訴外月仙、同高天吉はその後死亡したが、死因その他の詳細は不明である。

以上の事実が認められ、控訴人高仙子本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上認定の事実によれば、被控訴会社の右取締役会は、形式的には不完全ながらもその手続を履践しているかのような外観を呈しているけれども、その実質は訴外月仙が補助参加人全国男と結託してほしいままに招集、開催して決議をなしたものであつて、その招集手続及び決議方法には手続規定に違反した重大な瑕疵があるから、右取締役会の決議は法律的には効力を生じないというべきである。

三次に本件総会の効力について判断する。

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。

1  訴外月仙は、右無効な取締役会の決議に基づき、昭和五七年九月一四日付で日時を同月三〇日午前一一時、場所を神奈川県朝鮮信用組合本店五階、会議の目的事項を取締役三名選任の件と記載した臨時株主総会招集通知書を被控訴会社の定款に記載された株主である訴外田中一郎、同高文弘、同大塚百合子、同朴宗宅、同高国根にあてて郵送して招集通知をした。なお、被控訴会社においては株主名簿が作成されておらず、株券も発行されていなかつた。

2  本件総会は、訴外高文弘、同大塚百合子、同高国根が代理人により、訴外月仙が本人自ら出席して右招集通知書記載の日時、場所において開催され、本件総会において新取締役として補助参加人全国男、同全国成、訴外朴世現を選任する旨の決議がなされた。

3  控訴人らは、本件総会開催日の前に訴外月仙から電話で連絡を受けていたことから、昭和五七年九月三〇日開催の本件総会の場所に弁護士を同道して臨み、控訴人仙子において「株主総会を開くにあたつて取締役会を開いたかどうか」と質問したうえ、「本件総会は正式の株主総会ではないから異議がある」旨述べ、一時訴外月仙との間で応酬があつたが、それ以上の発言は控え、審議を傍聴していた。

4  被控訴会社は、本件総会に引続き取締役会を開催し、訴外月仙、同高天吉及び本件総会において新たに取締役に選任された補助参加人全国男、同全国成、訴外朴世現が出席し、補助参加人全国男が議長となり、訴外月仙を代表取締役に選任した。

以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、株主総会の招集は、原則として、代表取締役が取締役会の有効な決議に基づいて行なわれなければならないものであるところ、前記認定の事実によれば、本件総会は被控訴会社の代表取締役ではない取締役である訴外月仙によつて招集されたものであり(昭和五七年九月一一日午後一時開催された被控訴会社の取締役会において訴外月仙は同取締役会の議長となつたにすぎず、明示に代表取締役として選任決議がなされたものでないから、これをもつて、訴外月仙が被控訴会社の代表取締役の資格を取得したものということはできない。)、しかも本件総会は、訴外月仙が文龍亡き後被控訴会社経営上の主導権を掌握するために補助参加人全国男と結託して取締役会の有効な決議を経ることなしにその専断によつて招集されたものと認めることができる。そして、控訴人らが本件総会開催日の前に訴外月仙から電話で連絡を受け、本件株主総会に出席した事実があつたとしても、株主総会招集のために開催された取締役会がその招集手続及び決議方法に重大な瑕疵が存し、かつ総会に出席した控訴人らは右の違法な総会が開催されることにつき異議を述べるために弁護士を同道してその席上に臨み異議を述べ、月仙らにおいて右の異議を無視して総会の開催、決議を強行したため、その動向を見守るため控訴人らにおいて、総会を傍聴したにとどまり、株主として総会の開催を了承していたものではないから、控訴人らが右総会の席に出席したからといつて、総会招集手続の瑕疵が治癒されたものとすることはできない。そうすると、本件総会は、招集権限のない者により招集されたものであり、その招集手続には著しい瑕疵があるから法律上の意義における株主総会ということはできず、そこで決議がなされたとしても、株主総会の決議があつたものと解することはできないというべきである(最高裁判所昭和四四年(オ)第二七六号、同四五年八月二〇日第一小法廷判決・判例時報六〇七号七九頁参照)。

四したがつて、本件総会決議の不存在確認を求める控訴人らの本訴請求は理由があり、本訴請求を棄却した原判決は不当であるからこれを取り消し、本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官舘忠彦 裁判官牧山市治 裁判官小野剛)

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